道草の時間

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zoom RSS トレニアの小さな花壇より

<<   作成日時 : 2010/09/18 13:30   >>

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お世話になっている病院の横手に小さな花壇があって、いつも絶やさず、四季の花が咲いています。先日、この花壇の前で、色とりどりのトレニアの花をコンデジで撮っていましたら、病院のスタッフの方が、「涼しくなったので、お花がきれいになりました」と声をかけて下さいました。そうですね。今時の少女たちのように、生き生きとして、ちょっとファッショナブルなトレニアの花たちが、秋空の下、歓声をあげていました。

トレニア (Torenia fournieri Lind.) はインドシナ半島に原産する一年草で、ゴマノハグサ科の植物とされていましたが、DNAの塩基配列による新分類ではアゼナ科 (Linderniaceae) に属しています。トレニアは現在多くの園芸品種が出回っており、原種はどのようなものか判断がつかないのですが、週刊朝日百科「世界の植物」の中の塚本洋太郎博士の記述では「花は上下唇に分かれ、上唇は浅く2裂し、淡青色、下唇は3裂して紫青色になっており、紫色の目玉のように見える」とありますので、こういう色合いのものが原種なのではないかと思います。

トレニアは花壇をかざる園芸植物として重要なものですが、研究のための実験植物としても非常に役立っています。特にトレニアの研究のための利用は、日本で最も盛んです。まだほとんどトレニアが実験材料として世界でも使われていなかった頃、国立遺伝学研究所の遠藤徹博士がトレニアの花の色素量に2つの優性遺伝子が関わっていることを報告しました(T. Endo, Jap. J. Genet. 37:284-290, 1962)。学生の頃、トレニアという実験植物があることを知ったのは、遠藤博士の研究からでした。もちろん、今では、花の色素の合成にたくさんの遺伝子が関わっていることが分かっています。

その後、トレニアは育種に関連した研究が盛んになりました。種苗会社がもつ研究所では無論のことと思いますが、国立の研究機関である生研機構・花き研究所ではユニークな方法で新品種を作り出しています。一つは、サイクロトロンのような加速器で加速させたイオン粒子(重イオンビーム)を植物に当てることによって効率的に突然変異体を誘起する方法で、いろいろな花色、色のパターンなどをもつ育種のための原材料を創出しています。もう一つはCRES-T法(クレスティー法)という方法で、組換えDNAの技法をつかって色素の合成に関与する転写因子の働きを抑制することにより、花色や色のパターンを変えることができます。CRES-T法は、産業技術総合研究所高木優博士のグループにより開発された、標的遺伝子の発現を抑える方法 (K. Hiratsu et al., Plant J. 34: 733-739, 2003) で、標的とする転写因子の配列に転写抑制因子の活性部位を接続したキメラ遺伝子を組換えDNA法で植物に導入して、転写因子の発現を抑えるというものです。

トレニアの育種プロジェクトについては、
http://flower.naro.affrc.go.jp/kenkyusho/research/team02/theme_2/index.html
また、CRES-Tについての説明は、
http://www.cres-t.org/fiore/
にあります。

もう一つ、トレニアについては、昨年、日本から世界に発信された重要なな研究成果があります。被子植物では、雌しべの柱頭に着いた花粉から花粉管が伸びだし、花柱の中を通って胚珠に入り、中の胚嚢に到達すると、花粉管から放出された2つ精細胞が1つは卵細胞、もう1つは2つの極核と融合する、すなわち重複受精が行われます。花粉管を胚珠に導く物質があるということは、140年以上も前から考えられていたそうです。名古屋大学の東山哲也教授のグループは、トレニアが胚嚢の卵と助細胞からなる部分(卵装置)が、他の植物とは違って、胚珠の外に突出していることを発見し、この特殊性に着目し、各種のマイクトテクニックや遺伝子解析技術を駆使して、助細胞から出される花粉管誘因物質であるLURE1およびLURE2という2種類のタンパク質を同定しました。この成果は、昨年3月19日発行の英国の学術誌Natureに発表され (Okuda et al., Nature 458: 357-361, 2009)、また花粉管の誘導の図がNature誌の表紙をかざりました。

LUREs発見に至る過程は、科学技術振興機構のニュースに詳しく載っています。
http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/2009/2009-06/page05.html
http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/2009/2009-06/page06.html

花壇のトレニアの話から、固い話になってしまいました。

おわりに、トレニアの花のことや、東山教授らの研究に関連して、夕菅さんが昨年のブログに美しい写真と素敵な記事を載せていらっしゃいますので、紹介させていただきます。
http://yuusugenoniwa.blog.so-net.ne.jp/2009-10-14
http://yuusugenoniwa.blog.so-net.ne.jp/2009-10-20

夕菅さんの写真を見たあとでは気が引けますが、病院の小さな花壇のトレニアの写真を載せておきます。

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コメント(30件)

内 容 ニックネーム/日時
トレニアも色が増えたようですね。
青系と赤系の2種類しか知りませんでした。
この口を開けている感じはツリフネソウにも似ています。
まさかみんなで「みず〜〜!」でもないでしょうが
合唱をしているようにも見えます。
池田姫
2010/09/18 17:10
こんばんは
先日妻が、もらってきた花がこれです。
名前を忘れてしまったので、調べようと思っていたところです。
ありがとうございました。
トレニアは、良くみる花ですが、研究に役立っているとは知りませんでした。
YAKUMA
2010/09/18 23:31
エフ・エム 先生。
今日は思いがけないご訪問、誠にありがとうございました。
こんなに格調高いブログに、過分なご紹介を頂きましてびっくりするやら、あわてるやら、うれしいサプライズでした。

トレニアは一度植えたら毎年あっちにもこっちにも出て来て花の少ない真夏の助っ人です。
でも昨年ブログに取り上げるまでは地味ながら、健気な好ましい草花というくらいにしか思っていませんでした。特異な胚のうや卵装置どころか、雄しべ雌しべの構造さえも知らなかったのです。
でも調べていくうちにだんだん深みにはまり、最後は少々苦しくもなりました(笑)。

病院の花壇のトレニアの花、色とりどりに美しいですね。
原種といえるかどうかはわかりませんが、一番下の色が最も繁殖し易く、各色植えても翌年出てくるのは殆どこの色になります。
またお訪ねさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。


夕菅
2010/09/19 00:26
池田姫さん、コメントありがとうございました。
ほんとうにいろいろな花色のものが出てきましたね。「みず〜〜」ではないと思いますが、みな大きく口をあけて叫んでいるようですね。赤い声、青い声、ピンクの声、クリーミーな声・・・。まだまだたくさんのつぼみも控えています。
エフ・エム
2010/09/19 07:39
まんじゅ猫さん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/19 07:40
おばブーさん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/19 07:42
目黒のおじいちゃん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/19 07:44
炊飯器さん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/19 07:46
YAKUMAさん、コメントありがとうございました。
トレニアもこれだけ花色のものが出て来ると、改めてブームになるかもしれません。まだまだいろいろな品種がでてきそうです。
エフ・エム
2010/09/19 07:53
夕菅さん、早々のご返事、ありがとうございます。
ほんとうに、花の写真を丁寧にとっていらっしゃいますね。その上、顕微鏡写真も素敵です。
トレニアを始めて見たときはなるほど実験植物としてはよさそうだけれども、花卉としてはそれほどの花ではないと思っていましたが、近頃はなかなか素敵な花と、考えを改めています。
ご指摘のとおり、一番下の写真の花が最も原種に近いのかも知れません。塚本博士の記述ともよく合っているようです。この型が一番繁殖しやすいとのお話、うなずけます。
また訪問させていただきます。よろしくお願いいたします。
エフ・エム
2010/09/19 08:52
Turf-Runnerさん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/20 07:31
みちくさケロ太さん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/20 07:33
hideさん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/20 07:34
I子さん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/20 17:07
Tatehikoさん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/21 08:22
トレニアは頭の上で手を組んでいるような蕊が面白いですね。 いろいろな色の品種があって、花の少ない今の季節にはありがたい花ですね。
小梨
2010/09/21 21:39
小梨さん、コメントありがとうございました。
それぞれの植物には、雄しべ、雌しべにいろいろな工夫があっておもしろいですね。
トレニアにはいろいろな花色の品種が出てきたので、色の配合に工夫するとおもしろいでしょうね。
エフ・エム
2010/09/22 07:26
先生、今回の御記事は実に専門的ですね! ^^;)
トレニアについては、スミレの仲間かと思っておりました。素人はこれだから困ります。
英名は「wishbone flower」というらしく、あの雄蕊(だと思いますが)の交叉の具合が鳥の胸の叉骨に似ているからでしょうか。☆加速器を使って突然変異を促し花の色などをも変えさせるお話とかも興味津々です。ど素人の私には、なにしろなぜ花はあんなに見事な色を作り出せるのか、そのこと自体が不思議で仕方がないのです。☆ありがとうございました。引き続きご自愛ください。
mnemo
2010/09/22 08:24
mnemoさん、コメントありがとうございました。
私もよく知らないのですが、wishbone flowerというのは、開花直後の雄しべのかたちから来ているのでしょうね。日本ではそういう名は付きそうにないですが。
花色の育種法はまだこれから進んで行くと思いますので、それぞれの種で園芸品種がますます増えてゆくでしょう。
ただし、園芸品種作出のもとになった原種はどこかでしっかり保存しておいて欲しいものです。
mnemoさんのブログの音楽の「調」について、興味深く読ませていただきました。私自身は楽譜を読めないのですが、それでも哀調が短調で表現されることは分かります。でもなぜ哀感や悲愴感を感じるのか、たしかに不思議です。人間が皆共通にもっている感覚なのでしょうね。
エフ・エム
2010/09/22 20:30
炊飯器さん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/22 20:47
日本にいた時、ベランダで鉢植えしてました。
研究材料になってる特殊な花とは、知りませんでした。
それで、色んな花の色が作られ、栽培されてるのですね。
うーん、奥深いです
T&M
2010/09/23 14:07
訪問、コメントありがとうございました。
しばらくのお休みをさせて頂きますね。
復帰したら、また、お邪魔します。

トレニアの花、今がキレイですね。
今年は異常に暑くて、葉焼けをしたり、元気のない花が
多かった中で、家のトレニアも元気に咲いています。
可愛い花のトレニアが、研究のための実験植物になっているなんて知りませんでした。
みーたん
2010/09/23 23:58
T&Mさん、コメントありがとうございました。
トレニアもこのところ急にいろいろな色のものが栽培されるようになりました。栽培は比較的容易ですし、研究にも役立つし、素敵な植物と思います。
エフ・エム
2010/09/24 08:30
末摘花さん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/24 08:32
みーたんさん、コメントありがとうございました。
お庭でも、トレニアはあの猛暑に負けないで育ったのですね。
すばらしいです。
ブログをお休みなさるそうですが、復帰をお待ちしています。
エフ・エム
2010/09/24 08:39
おはようございます。
トレニアって研究対象のお花だったのですね。
見る目が変わります。
興味深く記事を読ませて頂きました。
有り難うございました。
やっと最近になって覚えたかなと思う分類が、今後、新分類になってまた頭の中でこんがらかりそうです。
kako狸
2010/09/26 06:38
isaacさん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/26 08:13
kako狸さん、コメントと気持玉をありがとうございました。
研究者は研究のモデル植物として、1年草であり、一世代が短く、交配が簡単で、できればきれいなものをよく採用します(きれいという点ではシロイヌナズナは例外)。ペチュニア、キンギョソウもよく使われますが、トレニアはそれ以上の好材料と思います。
トレニアはそういえばちょっとアゼナに似ていますね。
エフ・エム
2010/09/26 08:24
dragon pearlさん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/28 18:53
hummingさん、気持玉をありがとうございました。
見て下さってうれしく思います。
エフ・エム
2010/09/28 18:55

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