シロツメクサのいろいろなVマーク
シロツメクサ (white clover) の花は美しいものですが、葉もまたそのかたち、色がなんとも言えず好いものです。その葉の上には通常白いV型の斑紋 (V-markings) があって、葉の美しさを引き立てています。ところで、このVマークには、いろいろの型があることをお気付きでしょうか。
シロツメクサのVマークのかたちは遺伝する形質です。文献を探してみたところ、かなり古い2つの研究論文が見つかりました。
Carnahan, H.L.., Hill, H.D., Hanson A.A. and Brown, B.C. (1955) Inheritance and frequency of leaf markings in white clover. Journal of Heredity 46: 109-111.
Brewbaker, J.L. (1955) V-leaf markings of white clover. Journal of Heredity 46: 115-123.
これらの研究によると、Vマークのいろいろな型は、1遺伝子座の複対立遺伝子 (multiple allele) よって生じる形質としています。対立遺伝子(allele) とは、同じ遺伝子座に位置し、異なる形質を作り出す1対の遺伝子のことで、例えば、メンデルが使ったエンドウの丸い豆を作らせる遺伝子と、しわのある豆をつくらせる遺伝子とは、対立遺伝子です。さらに、1遺伝子座にそれぞれ異なる形質を作り出す遺伝子が3つ以上知られていれば、それぞれの遺伝子を複対立遺伝子と言います。例えばショウジョウバエの眼の色には、通常の赤のほか、血液色、鮮紅色、アンズ色、蜂蜜色、白色などがありますが、これらは1つの遺伝子座に位置する複対立遺伝子による形質です。また、ヒトの血液型にはA、B、AB、Oの型がありますが、これは3つの複対立遺伝子による形質です。
上記Carnahanらの研究は、7つの複対立遺伝子の組合せの違いによって、いろいろなかたちのVマークが作られることを示しました。またBrewbakerの研究では、4つの複対立遺伝子を組み合わせて、Vマークのかたちを調べています。またどちらの論文も、「Vマークあり」は「Vマークなし」に対し優性であると述べています。
昨年、近所の散歩で、シロツメクサのいろいろなVマークを見つけました。遺伝実験をしているわけではないので、はっきりとは言い切れませんが、これらのVマークも、おそらく上の先人たちが見つけた遺伝子座の複対立遺伝子によって作られたものと思います。
ついでに、上記の Carnahan らが見つけた基準的なVマークのいくつかを掲載されていた写真を参考にして、模式図をつくってみました。
下の段の左はVマークが切れています。また、下の段の中央はVマークが二重になっており、右はVマークが大きく広がってVのかたちではなくなっています。昨年の観察では、この3つの型は見つかりませんでした。在住地のごく限られた場所での観察でしたので、他所ではこのような型も見つかるかも知れません。もし見つけて下さったらうれしく思います。
ところで、Vマークを構成する白い部分は緑の部分とどのように違うのでしょうか。通常、葉の上側の表皮の下には、柵状組織という組織があり、そこでは葉緑体を多く含む円筒状の細胞が密に並んでいるのです。しかしVマークの部分では細胞が小さく、不定形になり、細胞と細胞の間の隙間(細胞間隙)が広くなっているのだそうです(Carnahanら)。つまりVマークが白っぽく見えるのは、緑の部分と比較すると葉緑体の数が少ないためという訳です。
Vマークがどのようにしてできるのか興味深いのですが、それに関する近年の論文は見つかりませんでした。今の分子生物学的な手法によって研究が行われるならば、そのようなこともきっと分かってくると思いますが、だれも手をつけていないのかも知れません。Vマークが自然界で果たしている役割もまた謎です。なにか虫を呼び寄せるようなメリットがあるのでしょうか。Vマークのない株もたくさんありますので、Vマークがなくても、別に不利になるようにも見えません。
なお、白いVマークはアカツメクサにも見られます。シロツメクサの遺伝子と共通の遺伝子によるものでしょうか。
追記:あとで気がついたのですが、最後の写真(「これ、どういうこと?」と書いたもの)のVマークは、模式図下段左のVマークが切れているタイプに当てはまるかも知れません。


シロツメクサのVマークのかたちは遺伝する形質です。文献を探してみたところ、かなり古い2つの研究論文が見つかりました。
Carnahan, H.L.., Hill, H.D., Hanson A.A. and Brown, B.C. (1955) Inheritance and frequency of leaf markings in white clover. Journal of Heredity 46: 109-111.
Brewbaker, J.L. (1955) V-leaf markings of white clover. Journal of Heredity 46: 115-123.
これらの研究によると、Vマークのいろいろな型は、1遺伝子座の複対立遺伝子 (multiple allele) よって生じる形質としています。対立遺伝子(allele) とは、同じ遺伝子座に位置し、異なる形質を作り出す1対の遺伝子のことで、例えば、メンデルが使ったエンドウの丸い豆を作らせる遺伝子と、しわのある豆をつくらせる遺伝子とは、対立遺伝子です。さらに、1遺伝子座にそれぞれ異なる形質を作り出す遺伝子が3つ以上知られていれば、それぞれの遺伝子を複対立遺伝子と言います。例えばショウジョウバエの眼の色には、通常の赤のほか、血液色、鮮紅色、アンズ色、蜂蜜色、白色などがありますが、これらは1つの遺伝子座に位置する複対立遺伝子による形質です。また、ヒトの血液型にはA、B、AB、Oの型がありますが、これは3つの複対立遺伝子による形質です。
上記Carnahanらの研究は、7つの複対立遺伝子の組合せの違いによって、いろいろなかたちのVマークが作られることを示しました。またBrewbakerの研究では、4つの複対立遺伝子を組み合わせて、Vマークのかたちを調べています。またどちらの論文も、「Vマークあり」は「Vマークなし」に対し優性であると述べています。
昨年、近所の散歩で、シロツメクサのいろいろなVマークを見つけました。遺伝実験をしているわけではないので、はっきりとは言い切れませんが、これらのVマークも、おそらく上の先人たちが見つけた遺伝子座の複対立遺伝子によって作られたものと思います。
野原のシロツメクサ
Vマークのない葉
いろいろなVマーク
幸福のしるし「四葉のクローバー」
ちょっと頼りないVマーク
これ、どういうこと?
ついでに、上記の Carnahan らが見つけた基準的なVマークのいくつかを掲載されていた写真を参考にして、模式図をつくってみました。
下の段の左はVマークが切れています。また、下の段の中央はVマークが二重になっており、右はVマークが大きく広がってVのかたちではなくなっています。昨年の観察では、この3つの型は見つかりませんでした。在住地のごく限られた場所での観察でしたので、他所ではこのような型も見つかるかも知れません。もし見つけて下さったらうれしく思います。
ところで、Vマークを構成する白い部分は緑の部分とどのように違うのでしょうか。通常、葉の上側の表皮の下には、柵状組織という組織があり、そこでは葉緑体を多く含む円筒状の細胞が密に並んでいるのです。しかしVマークの部分では細胞が小さく、不定形になり、細胞と細胞の間の隙間(細胞間隙)が広くなっているのだそうです(Carnahanら)。つまりVマークが白っぽく見えるのは、緑の部分と比較すると葉緑体の数が少ないためという訳です。
Vマークがどのようにしてできるのか興味深いのですが、それに関する近年の論文は見つかりませんでした。今の分子生物学的な手法によって研究が行われるならば、そのようなこともきっと分かってくると思いますが、だれも手をつけていないのかも知れません。Vマークが自然界で果たしている役割もまた謎です。なにか虫を呼び寄せるようなメリットがあるのでしょうか。Vマークのない株もたくさんありますので、Vマークがなくても、別に不利になるようにも見えません。
なお、白いVマークはアカツメクサにも見られます。シロツメクサの遺伝子と共通の遺伝子によるものでしょうか。
追記:あとで気がついたのですが、最後の写真(「これ、どういうこと?」と書いたもの)のVマークは、模式図下段左のVマークが切れているタイプに当てはまるかも知れません。


この記事へのコメント
シロツメクサのVの模様が遺伝によるものだということは、全く知りませんでした。しかも、こんなにいろいろな模様があるなんて!!
これからシロツメクサを見る目が変わりそうです。^^
散歩の時の楽しみも増えました~。
驚きました。どれも見覚えのあるシロツメクサの葉ですが、こんなに違いがあるのですね。
初めて知った葉紋の種類に驚きです。
何度見ても面白いです。これからシロツメクサを見る目が変わってきそうです。
よつば探しより面白そうですね。
ありがとうございます。
見て下さってうれしく思います。
見て下さってうれしく思います。
見て下さってうれしく思います。
前からシロツメクサやアカツメクサの葉のマークは気になっていたのですが、昨年あちこちで道草の時間を過ごすうち、ずいぶんいろいろなかたちがあるものと分かりました。
もっと違うものがあるか、今年もさがしてみたいです。
こんなに多様なかたちがあるなんて、私も去年実感した次第です。今年はアカツメクサにも注目して見ようと思います。
四ツ葉探しも兼ねるといいですね。
見るといえば4つ葉があるかどうかです。
不思議なものですね。
家紋みたい。
Ⅴマークは他にもありましたね、ミズヒキだったかしら?
サインはⅤとか記事に書いたような気がします。笑)
なんと・・・いろいろなものの見方があるものですね。
写真だけを撮っている者には、全く気づきませんね。
ありがとうございました。
そんなに深く考えた事ありませんでした。
今度もっと良く見てみましょう!!
私まだ四葉のクローバーを見たことないんですよ。
最後の色の変化も不思議ですね。
葉のVマークもいろいろあるのですね。
そこまで違いがあるなんて思ってもみませんでした。シロツメクサとアカツメクサの色違いぐらいと葉は四葉を探すぐらいです。
シロツメクサの白い模様…濃かったり、たまに無いものもあるな~くらいにしか考えていませんでした。
これも遺伝なんですね~。
私も色々なVマークを探してみます^^
何となくのイメージですが、Vマークのないものって、小さくて弱々しいものが多い気がします。
これも確認してみないと、ですね。
見て下さってうれしく思います。
たしかに家紋か、西洋のエンブレムみたいですね。ミズヒキをはじめ、タデ科の仲間もVマークがありますが、そちらは褐色ですね。いろいろあるか調べてみるのもおもしろいかな。花はいい加減にして、葉に凝りそうです。
なんでこんなマークを持っているのだろうと不思議に思っています。昔ののんびりした時代には、こんな研究をする人もいましたが、あまり経済的に儲かりそうもないので、さらにVマークの研究を進める人はいないのかも知れません。
私も実際に調べ始めて、ずいぶんいろいろのマークがあることに気がつきました。Vマークにも立派なのと、貧弱なのがあり、立派なのを持っている株は偉そうに、貧弱なのは遠慮がちに見えます。四ツ葉で立派なマークをもつものを探してみたいです。
近所のものばかり観察していますが、他所ではどういうものが見つかるか、とても興味があります。旅行でもする機会があれば、他所のも観察してみたいと思っています。
シロツメクサやアカツメクサは野原にたくさんあるので、こういう観察にはいい材料ではないかと思います。
ご指摘のように、マークのないものはあるものと比べて弱々しいような印象ですね。もう少し調べてみます。ありがとうございます。
今日はVマークを見ながら庭の内外を歩いてみました。
確かに上段の物が殆どでしたが、特に無紋と上から3枚目のような半円型が多く見つかりました。でもうちの周りでは1叢の中に無紋と淡い半月型が共存しているのも度々ありました。これが2株かどうかは確認できていません。
ここでは無紋の葉も栄養たっぷり良く育っているようでした。
見て下さってうれしく思います。
シロツメクサは花も葉の色もかたちも美しいものですが、あのマークがとてもこの植物に似合っていると思っています。
無紋のものもきれいでないという訳ではありませんけど。
マークのかたちは遺伝形質なので、1株の中では違わないのが普通と思いますが、葉の受ける条件や生理状態によって、発現の違いもあるかと思います。
シロツメクサにはVマークがないものもよく見かけます。アカツメクサにもVマークがあるのですが、ないものがあったかどうか、また調べてみます。
いつも行くびん沼公園は、もうすぐシロツメクサに覆われてしまいます。--;
野草を見つける楽しみがないからVマーク観察をしてみます。
驚きました。面白いです。
わたしもいろいろなVマークを探してみましょう。
楽しみです。
ところで、シロイヌナズナを見つけました。
よく通る道端に咲いていました。嬉しかったです。
エフ・エムさんのブログを読んでいなかったなら、きっと気づかないで通り過ぎていたでしょう。
ありがとうございます。
記事にリンクさせていただきました。
見て下さってうれしく思います。
シロツメクサがグランドカバーのように地面を覆っているところがありますね。なにか懐かしい感じです。Vマークや四ツ葉を探すのも楽しい道草の時間になると思います。
シロツメクサの観察はこれからの季節が一番いいと思います。葉は新鮮で、Vマークの発現もはっきりわかるでしょう。上の写真にもありますが、紫色の斑や点々の入っているものもたまにありますので、それもおもしろいかと思います。
シロイヌナズナの記事を拝見してまいりました。写真がとてもよく撮れていて、素敵でした。
Vマークがあるものとないものがあることを漠然と知っていましたが、こんなに違いがあったり、遺伝によることを考えていなかったので新鮮な感じで興味深く拝見しました。
今度から今までとは違った目でシロツメクサを見ることが出来そうです。
実は、感動しました!美しい。
こういう研究があることにも。
タデ類の葉のVマークも似た原理でしょうか?
私も去年、道草の時間を過ごすうちに、シロツメクサのマークに興味をもち、これを研究している人がいるか、調べてみた次第です。いかにも古典的な遺伝研究ですが、今の時代では、そんな研究が人間の何に役立つかと言われそうです。
シロツメクサに限らず、植物はそれぞれ個性をもっているので、ごく普通の植物からも何か見つけてみたいと思っています。
タデ類のVマークにも興味がありますが、紫ないし褐色の色素がマークを作っているようですね。また観察してみたいと思います。
見て下さってうれしく思います。
面白い!!! 見方が変わります、有難うございます。
なんでこんなマークをつける必要があるのか、謎です。
自己主張のつもりでしょうか。
見て下さってうれしく思います。
見て下さってうれしく思います。
子どももころに憶えた草の名など、標準名をのちに知っても、忘れられませんね。イヌタデよりもアカマンマ、エノコログサよりもネコジャラシの方が先ず出て来ます。標準和名は標準語のようなもので、地方の方言を大切にして行くと同じように、地方名も是非保存して行きたいものです。
私はcloVerだよ、とクローバーであることを主張している株もあれば、すっかりデザインを変えているへそまがりもいる。なかには、私ほんとにクローバー?と自信のなさそうなのもいる。それぞれの性格を考えながら観察するのもおもしろいかも知れません。
自然界には、無意味のものは無いのですね
研究した先人の人たちには敬服です。
見て下さってうれしく思います。
道ばたをキョロキョロ変わりものを探しながら歩くことも多いです。思わぬ発見があるとうれしいですね。